近年、急速に拡大してきているキャッシュレス決済。小売店が導入することで、業務効率化や売上増加など、さまざまなメリットが得られます。
今回は、小売店がキャッシュレス決済を導入した場合のメリットや、店舗規模と業態別でおすすめのキャッシュレス決済サービスについて解説します。
【今回のコラムをざっくりまとめると…】
この記事では、キャッシュレス決済のメリットを紹介しています。現金管理の手間を減らし、会計のスピードを向上させることで、業務効率化や顧客満足度の向上が期待できます。また、非接触決済により衛生面の向上も図れます。
経済産業省は、2025年までにキャッシュレス決済の比率を4割程度にする目標を掲げています。2024年までの実際のキャッシュレス決済比率は、全体で42.8%と4割の目標を達成しています。
なお、将来的にキャッシュレス決済の比率は80%を目標としており、今後も拡大していくと予想できます。
キャッシュレス決済の普及率は、2010年から2024年まででクレジットカード決済が一番多いですが、2020年からコード決済の利用率も高まってきています。電子マネーやデビットカードが5%以下の普及率のなか、コード決済は9.6とキャッシュレス決済のなかでも特に伸びています。
また、小売業の普及率ですが、85%と飲食や娯楽、宿泊業界のなかで一番高い数値です。
業種別の普及率と今後の予測は以下の表をご覧ください。
業態 | 普及率 | 経済産業省の目標値 |
スーパーマーケット | 32.5%(2021年) | 40% |
ドラッグストア | 40% | |
アパレル | 約50%(2023年) | 40% |
キャッシュレス決済の今後の予測としては、2025年に決済比率40%の目標を抱えていましたが、2024年には達成しているうえ、2020年から上昇傾向です。
消費者と事業者の双方に大きなメリットがあることや、経済産業省が将来的に80%の決済比率を目標にしていることも含め、今後も全体的に上昇していくと予測できます。
キャッシュレス決済とは、現金以外の方法で商品・サービスの代金を支払う決済方法の総称です。 最近ではキャッシュレス決済を導入しているかどうかでお店を選ぶ消費者も増えているため、急速に普及が進んでいます。
キャッシュレス決済の種類と特徴は以下のとおりです。
決済方法 | 特徴 | 手数料相場 | 入金サイクル |
クレジットカード | ・利用者数が多い ・高額決済が可能 ・手数料が異なる | 約1~10%(カード会社により異なる) | 月末締め翌月末支払いなど(カード会社により異なる) |
デビットカード | ・即時引き落とし ・クレジットカードより手数料が安い | 約1~5%(カード会社により異なる) | 週1回、月2回など(カード会社により異なる) |
電子マネー | ・交通系ICやプリペイドカードが主流 ・素早い決済が可能 | 約3~4% | 一般的に月1~2回 |
QRコード・バーコード決済 | ・スマホアプリで完結できる ・種類が豊富 | 約1~3% | ・月末締め翌月末払い ・月2回払いなど(カード会社により異なる) |
ここではキャッシュレス決済を導入するメリットを店舗側の視点から解説します。
会計業務において、レジスタッフに最も負担がかかる決済方法は現金です。金銭のやり取りはミスが許されないため、精神的な負担になりやすい業務です。 そのため、キャッシュレス決済の導入により現金で会計・決済する機会が減ることは、レジスタッフにかかる負担の低減につながります。
小売店の円滑な運営で求められることは、混雑時間帯の業務効率化や人件費の削減です。キャッシュレス決済を導入することで、従来の現金による釣り銭確認が不要になる他、ミスによって発生するレジ締め時の誤差といったことがなくなります。
より具体的な数値としては、キャッシュレス決済導入で1日約2,400円、月間でおおよそ7万円程度のコストカットが可能というデータもあります。
また、キャッシュレス決済の割合が増えることで、売上金の勘定や銀行への振込作業の手間を減らせることも大きなメリットです。
キャッシュレス決済は、売上データからさまざまな分析が可能になります。
1.顧客購買パターン把握
キャッシュレス決済のデータから、購買履歴を分析することで、売上が高い曜日や時間帯、売れ筋商品などを把握できます。
2.在庫最適化
販売情報管理システムのPOSと連携させることで、在庫管理が可能です。商品の過不足がわかりやすくなるため、品切れや不良在庫といった課題が減少します。
3.販促効果測定
QRコード決済などで行われている「20%ポイント還元」などのキャンペーンを利用することで、来店や買い増しなどが期待できます。
キャッシュレス決済を導入することで、客単価上昇と新規顧客の獲得ができるのも大きなメリットです。実際に導入した店舗では、導入後の売上が10%以上増えた店舗は8%であるほか、売上が上がったと実感している事業者は23%に上ります。
また、キャッシュレス決済は特に若年層の利用率が高いです。例えば、後払い決済サービス「Paidy」を導入したアパレル企業では、注文件数が通常の3倍に増加、決済利用者の約4分の1が若年層の新規顧客といった結果が出ています。
なお、外国人観光客によるインバウンド需要の確認も重要です。特に韓国でのキャッシュレス決済の利用率は世界で最も高く、2021年で95.3%に上ります。2番目に利用率の高い中国
でも83.8%と日本の2倍以上の水準です。
外国人観光客の来店が見込まれる店舗では、客単価向上と新規顧客獲得の観点からキャッシュレス決済の導入が必須と言えるでしょう。
ここでは、キャッシュレス決済を導入する消費者目線でのメリットを解説します。
キャッシュレス決済を導入している店舗では、現金を持ち歩かなくて良くなる他、レジ待ち時間の短縮や、ポイント還元など顧客へのメリットが多くあります。現金を取り扱うことがないため、利便性の向上につながり、決済時はバーコードのスキャンや端末へのタッチだけで完了するため、レジの混雑が解消されます。
また、現金では付与されないポイント還元があることも顧客にとってメリットです。キャッシュレス決済会社では、キャンペーンとして「20%ポイント還元」などが行われます。通常決済時のポイント還元にくわえ、顧客は、このような施策からキャッシュレス決済の導入店舗を選ぶ理由になります。
キャッシュレス決済を導入している店舗は、タッチ決済やバーコードのスキャンで支払いが完了します。
特に、コンビニエンスストアを通勤前に利用する顧客は時間がない場合がほとんどです。キャッシュレス決済による会計の待ち時間が短縮されることは、顧客満足度の向上に大きく貢献します。
キャッシュレス決済のポイント還元率は、決済方法により異なります。若年層に多く使われているPayPayや楽天Payなどは、約0.5%~1.5%です。
キャッシュレス決済で貯まったポイントは1ポイント1円で利用できることがほとんどなため、顧客の購買行動を促進できます。
現金決済では支出管理をするために、家計簿の記入が必要ですが、キャッシュレス決済は支出履歴の自動記録や予算管理アプリとの連携によって購入履歴が残るため、家計簿に記入する手間が省けます。
レシートなどを保管する必要がなくなる点もメリットと言えるでしょう。
キャッシュレス決済を導入するデメリットを店舗視点で解説します。
主な決済サービスの決済手数料相場と月額固定費は以下のとおりです。
決済サービス名 | 手数料相場 | 月額固定費 |
クレジットカード | 約1~10% | 約3,000円~8,000円 |
電子マネー | 約3~4% | 0円~ |
QRコード・バーコード決済 | 約1~3% | 0円~ |
なお、キャッシュレス決済の導入に伴うコストの削減対策は、決済事業者と直接契約を結ぶことや複数の決済サービスを扱う代行業者と契約することが挙げられます。仲介業者や複数社と契約することで発生するマージンを取られないようにするのが良いでしょう。
現金決済と異なり、キャッシュレス決済はネットワークを必要とします。決済会社によるシステム障害やネットワークの不具合、停電などで決済ができなくなる可能性がデメリットです。
このようなトラブルは店舗運営に支障をきたす恐れがあるため、対策をしておきましょう。キャッシュレス決済以外の支払い方法を複数用意しておくほか、Wi-Fiの通信環境を最適化しておくなどが有効です。
キャッシュレス決済は現金と違い、即時で入金がされません。入金サイクルを把握しておかないと資金繰りが厳しくなり、店舗運営に悪影響を及ぼす可能性があります。
入金サイクルは決済サービスにより異なりますが、クレジットカードや電子マネーは月に1~2回です。QRコード決済は提供会社によりますが、月に2回以上の入金をしていることもあります。
なお、資金繰り対策として以下の対策が有効です。
キャッシュレス決済は、比較的低コストで導入できます。小売店がキャッシュレス決済を導入する場合の費用は以下のとおりです。
対応決済サービス | 端末費用 | システム連携費用 | スタッフ教育費用 |
・クレジットカード ・電子マネー ・QRコード・バーコード決済 | 0円~約78,800円 | 約3,000~5,000円/月額 | 0円~ |
※端末費用はキャンペーンなどで実質0円で提供しているサービスもあります。
ここでは、キャッシュレス決済を導入するデメリットを消費者視点で解説します。
現在の日本では、多種多様なキャッシュレス決済が普及しています。そのため、どのお店においても同じ決済方法が利用できるとは限らず、不便な思いをしている消費者もいるでしょう。 複数店舗を経営しているお店の場合には、基本的に使用できるキャッシュレス決済の種類は統一しておくことがおすすめです。「A店ではQRコード決済が利用できたのに、B店では利用できない」となると、顧客の不満につながってしまう可能性があります。
キャッシュレス決済の不正利用や詐欺の手口は、常に進化しています。 クレジットカードを専用機器に読み取らせることで、情報を盗む手口や店舗で表示されているQRコードの上に別のQRコードを物理的に貼り付ける手口など、さまざまな事例が確認されています。 そのため、「キャッシュレス決済は現金を使わないから盗まれる心配がない」と過信しないことがおすすめです。
停電や通信障害時は消費者側もキャッシュレス決済が使えなくなります。停電時の対策として、モバイル決済端末をアプリ化することで、緊急時の対応が可能です。
また、通信障害が発生した場合、他の決済サービスが使える可能性もあるため、確認してみることをおすすめします。
キャッシュレス決済は現金と違い、必要以上に消費してしまう恐れがあります。ほとんどの決済サービスでは、1日単位などで利用金額の上限設定ができるため、使いすぎに注意することが大切です。
また、予算管理アプリなどを活用し、定期的に確認することがおすすめです。
最後に、キャッシュレス決済のデメリットを解決するための対策を解説します。
キャッシュレス決済を導入する際は、補助金の申請がおすすめです。例えば「小規模事業者持続化補助金」は、販路開拓や業務効率化として50万円までが補助対象です。他にも、キャッシュレス決済に使える補助金は複数存在し、上限額も変わります。
申請方法は、経営計画書の提出などの申請手続きから始まります。申請には審査があり、採用されたら、実際に補助事業を開始しましょう。最後に事業の実績報告書の提出を経て補助金が交付されます。
キャッシュレス決済は現金と違い、停電や通信障害時に使えなくなる可能性が高いです。このような緊急対応時は、決済サービスが全て使えないのか、電源再起動で改善しないかなどマニュアルの整備や周知をしておきましょう。
また、緊急時は現金決済が円滑に進められるように、キャッシュドロアや電卓を準備することをおすすめします。
緊急時だけでなく故障や不具合が発生した場合にも、キャッシュレス決済を利用できなくなります。その際、スピーディーに対応してもらえるかどうかは非常に重要です。 そのため提供メーカーと契約する前に、必ずサポート体制については確認しましょう。多くのメーカーが無償サポートと有償サポートを用意しているため、それぞれのサポートの範囲も明らかにしておくことがおすすめです。
小売店におけるキャッシュレス決済サービスの選び方は主に3つあります。
まず手数料率ですが、小売店の規模や業態に関わらず、安い決済会社を探しましょう。クレジットカードや電子マネーなど一般的にどの決済方法でも3%程度が一般的です。
続いて、特に小規模店舗に重要なのが入金サイクルです。一般的には、クレジットカード・電子マネー・QRコード決済は月に1~2回です。しかし、決済会社によっては、月に3回以上入金可能なこともあるため、確認しておきましょう。
最後に顧客層ですが、例えば若年層が多く訪れる地域の小売店であれば、QRコード決済を充実させ、オフィス街であればクレジットカード決済が行えるようにしておくなどの選び方がおすすめです。
店舗別でのおすすめ決済サービスは以下のとおりです。
店舗規模 | おすすめサービス | 選定理由 |
小規模店舗 | クレジットカード | 小規模店舗は導入コストの支払いが難しい場合もあるため。 |
中規模店舗 | クレジットカード・電子マネー・QRコード決済 | 中規模店舗は顧客満足度の向上と売上増加を図るため。 |
大型店舗 | クレジットカード・電子マネー・QRコード決済 | 大型店舗はさまざまな顧客層に対応するため。 |
業態別に分けた最適な決済方法についていくつか例を挙げて解説します。
例えば客単価の高いアパレルであれば、クレジットカード決済の導入がおすすめです。反対に、客単価が低いアパレルであればクレジットカードにくわえ、電子マネーなども導入しておくと便利でしょう。
食品スーパーは、さまざまな顧客層に対応するため、基本的には全ての決済サービスの導入がおすすめです。
ドラッグストアも会計が高額になりづらいため、クレジットカード決済を基本としつつ、電子マネーやQRコード・バーコード決済を導入しておくと便利でしょう。
小売店では、キャッシュレス決済の選定基準について考えておく必要があります。優先順位は以下のとおりです。
1.初期コスト
特に小規模店舗であれば、初期コストは重要になります。一番先に考えておきましょう。
2.ランニングコスト
初期コストが安くても、ランニングコストが高く、業務効率化や売上増加に貢献しづらいこともあります。特に長期的に導入し続ける場合は注意が必要です。
3.機能面・拡張性
最後に決済サービスの機能面や拡張面を選びます。店舗規模や出店場所によってクレジットカードや電子マネーの導入などを検討し、購入履歴を分析するなどの拡張性を選びましょう。
キャッシュレス決済の導入前には以下のポイントについて確認しておきましょう。
⬜︎契約条件
初期費用や月額料金などの契約に関する事項について確認していきます。
⬜︎手数料体系
クレジットカード、電子マネー、QRコード・バーコード決済それぞれの手数料や売上の振込手数料がいくらかかるかも確認するのが重要です。
⬜︎入金サイクル
特に小規模店舗の小売店は、入金サイクルが月に何回あるか確認しておくことをおすすめします。
⬜︎サポート体制
決済端末の故障や通信障害時などのサポート体制がどのようなものかを把握しておくことも大切です。
⬜︎将来的な拡張性
店舗規模の拡大や多店舗展開をしていきたい小売店は、将来的な拡張性についても考慮しておきましょう。
キャッシュレス決済で一番人気なのは、「PayPay」です。2023年のデータでは利用率が49%と2人に1人が利用している計算になります。
人気の理由として、使える店舗が圧倒的に多いことにくわえ、PayPayを利用する顧客も年齢問わず多いことが挙げられます。
小売店がキャッシュレス決済を導入することで、顧客の利便性が向上し、売上増加につながるほか、レジ業務の簡略化や現金管理の手間が減ることによる業務効率化が挙げられます。
また、購入履歴など顧客データを活用することで、売れ筋商品などを把握できるメリットもあります。
この記事では、キャッシュレス決済を導入するメリット・デメリットを店舗・消費者双方の視点から解説しました。 キャッシュレス決済を導入することで、業務効率化や顧客の利便性向上などさまざまなメリットを享受できます。その一方でデメリットもありますが、事前の準備をしっかり行うことで、最小限に抑えられるでしょう。