
店舗運営 仕入先に商品や食材、備品をお願いするとき、「とりあえず電話やLINEで頼んでしまっている」というお店も少なくありません。少額の発注であれば、それでもなんとなく回ってしまいますが、このやり方を続けていると、「数量が違う」「金額が違う」といった行き違いが起きやすくなります。
その結果、税務・会計上の証拠が手元に残らなかったり、場合によっては法律上のルールに反してしまうおそれが出てきたりと、あとから大きなトラブルにつながる可能性があります。
こうしたリスクを減らしてくれるのが「注文書(発注書)」です。今回は、店舗運営に欠かせないこの書類について、注文書とは何か、発注書とどう違うのか、どのように書き、いつ発行すればよいのかを、飲食店や小売店の目線で整理していきます。
【今回のコラムをざっくりまとめると…】
この記事では、注文書の基本的な役割や発注書との違い、書き方と発行タイミング、保存や電子化の注意点までを一通りまとめています。読み終わる頃には、「どんな場面で注文書を出しておけば安心なのか」「最低限どの項目を書いておけばよいのか」がイメージでき、明日からの仕入や発注の仕組みを見直すヒントとして活用していただけるはずです。

注文書とは、依頼する側(発注者)が「御社の製品やサービスを、この条件で注文します」と、相手に正式に伝えるための書類です。見積書などで一度確認した内容を、品目や数量、金額、納期といった条件と合わせて、書面やデータで確定させる役割があります。
口頭やチャットだけのやり取りだと、時間が経つにつれて内容を忘れてしまったり、担当者が変わったときに情報が引き継がれなかったりしがちです。注文書を残しておくことで、「最初に約束したのはこの内容です」と、後からでも確認しやすくなります。
たとえば、定番メニューの食材のほかに、季節限定メニュー用の食材を追加で頼んだ場合など、いつもの注文と違うポイントをはっきりさせておけるのも注文書のメリットです。「いつも通りで」ではなく「この日だけはこうしてほしい」を形に残せる、と考えるとイメージしやすいでしょう。
なる「親事業者と下請事業者の取引」や、フリーランス保護法(いわゆるフリーランス新法)の対象となる取引では、発注内容を記載した書面やメールなどの交付が義務になっています。
対象になるかどうかは、取引の金額や業種、立場などによって変わります。中小規模の店舗でも、デザイン制作やWebサイト制作、システム開発などを外部の個人に発注している場合は、このルールに関わってくることがあります。「なんとなく毎回メールの文章だけで済ませている」取引がある場合は、一度その内容を整理し、必要に応じて注文書や契約書の形にしておくと安心です。
自社がどこまで該当するかは、税理士や専門家、各省庁のガイドラインなどで確認しておくとよいでしょう。法律面での位置づけを知っておくことで、「うちは注文書を出しておいたほうがいい取引だな」と判断しやすくなります。
この章のポイントは、注文書は単なる紙ではなく、約束した内容を形にする“証拠兼メモ”であり、法律上も重要な役割を持ちうる、ということです。

見積の段階で一度話していたとしても、日数が空いたり、担当者が変わったりすると、数量や仕様の認識が少しずつずれてしまうことがあります。注文書を交わしておけば、注文品目や数量、金額、納期、納品場所といった条件を、双方であらためて確認できます。
たとえば「この日は冷蔵庫の中身を総入れ替えしたいので、朝の9時までに納品してほしい」といった要望も、注文書の納期欄や備考欄に書いておけば、相手側も意識しやすくなります。逆に、こうした条件が口頭だけで伝えられていると、「9時までに届けてほしかったのに、お昼過ぎに届いてしまい仕込みが間に合わない」といったトラブルが生じやすくなります。
忙しい営業日の前日に、閉店後の電話で慌ただしく発注していると、「言ったつもり」「聞いていない」の行き違いも増えがちです。そうした“バタバタの発注”こそ、注文書という形で条件を残しておく価値が大きくなります。
発注書・注文書は、仕入内容が妥当かどうか、請求書の内容と合っているかを確認するための重要な証拠でもあります。これらの管理が曖昧だと、税務調査のときに「本当にその取引があったのか」「金額は妥当だったのか」といった点を説明しにくくなります。
請求書だけでなく、その前段階にあたる注文書も揃っていると、仕入の経緯をスムーズに説明しやすくなり、会計処理の透明性も高まります。特に、複数店舗をまとめて管理している場合や、本部と店舗で発注権限が分かれている場合は、「誰が何をどこに発注したか」を追える資料として、注文書が重要な役割を担います。
もうひとつ見逃せないのが、不正防止の側面です。発注書の発行を社内ルールとして定め、発注番号で管理しておくと、誰が、いつ、どの取引先に、何を、いくらで発注したのかが追いやすくなります。
結果として、担当者の私的発注や架空発注といった不正を防ぐ効果が期待できますし、経営者や本部から見ても「現場の発注状況」が見えやすくなります。特に、仕入金額が大きくなりがちな飲食店・小売店では、「レジ周りの管理」だけでなく「発注に関する管理」を整えることが、利益を守るための重要な一歩になります。「発注書が必ず残る仕組み」をつくっておくことは、その土台づくりといえるでしょう。
まとめると、注文書は「行き違い防止」「税務・会計の裏取り」「不正防止」という3つの面で、店舗のお金と信頼を守ってくれる存在です。

結論から言うと、法律上、注文書と発注書に明確な違いはありません。どちらも「取引先に対して、商品やサービスの発注意思を示すための書類」という意味で使われています。
実務上は、「高額な取引や特注品のときは発注書」「日常の仕入れは注文書」のように、自社ルールで呼び方を分けているケースもあります。「発注書」と書くと少し堅い印象があるため、お店や社内の雰囲気に合わせて「注文書」という名前を使っている会社も少なくありません。
重要なのは名称ではなく、内容がきちんと書かれているかどうかです。「どちらの名前で呼ぶか」を迷うより、「どんな情報を必ず残すか」を決めておくほうが、実務上のメリットは大きくなります。
発注請書(注文請書)は、受注側が発行する書類です。発注側から送られてきた発注書(注文書)を確認し、その内容で仕事を受けることを示します。
発注先から「発注請書を返送してください」と言われた場合は、数量や納期、金額などに問題がないかを確認したうえで、書面や電子データで返送します。発注請書は、発注側と受注側の双方が同じ内容を認識できているかを確認するためのものなので、内容に違和感があれば、その時点で必ず相談・修正しておくことが大切です。
個別契約書は、商品やサービスの売買契約の内容を詳しく定めたもので、その契約書を締結した時点で、その取引に関する契約が成立します。長期的なシステム導入や店舗の内装工事など、金額が大きい取引では、注文書とあわせて個別契約書を交わすケースも多く見られます。
一方、発注書・注文書を出した段階では、まだ発注側からの「申し込み」の状態にすぎません。発注請書や契約書など、相手側の承諾を示す書類と組み合わせることで契約が成立する、という考え方が一般的です。「注文書=契約書」ではないことを押さえたうえで、必要な場面では契約書もセットで準備しておくとよいでしょう。
「名称よりも『誰が・何を・どう発注したか』をはっきりさせることが大事」という点だけ押さえておけば十分です。

ここからは、注文書の書き方を見出しごとに整理していきます。紙の書式でも、Excelでも、クラウドサービスでも、押さえておくべき項目はほぼ同じです。ひとつフォーマットを決めておけば、発注のたびにゼロから考える必要がなくなり、ミスの防止にもつながります。
注文書の一番上には、「注文書」や「発注書」といったタイトルを明記し、発行日(注文日)を記載します。取引が多い会社の場合は、発注番号を付けておくと、後から検索したり、納品書・請求書と照合したりする際に便利です。
発注番号は、年度ごと・取引先ごとなど、自社に合ったルールで付け方を決めておくと管理しやすくなります。たとえば「2025-001」「2025-A001(Aは仕入先コード)」といった形で統一しておくと、紙でもデータでも探しやすくなります。
次に、発注先の情報を書きます。会社名は正式名称で記載し、法人であれば「御中」、個人であれば「様」を付けます。必要に応じて部署名や担当者名も入れておくと親切です。最近はメール添付やクラウドでやり取りすることも多いため、担当者名・電話番号・メールアドレスなども合わせて記載しておくと、相手が問い合わせしやすくなります。
その下に、自社(発注元)の会社名や住所、電話番号、メールアドレス、担当者名などを記載します。社判や認印を押す運用にしている場合は、この部分に押印欄を用意します。店舗と本部の住所が異なる場合は、「発注元(本部)」「納品先(店舗)」を分けて書くようにすると、納品ミスを防ぎやすくなります。
件名には、「○月度 食材仕入れの件」「券売機本体および周辺機器の発注の件」など、どの取引についての注文書なのかが一目で分かる表現を入れておくと分かりやすくなります。
そのうえで、明細欄に商品名やサービス名、品番・型番、数量、単価、金額といった情報を記載します。サイズやカラー、セット数、作業時間など、後から見返したときに取り違えが起こらないレベルまで細かく書いておくのがポイントです。
店舗で使っている発注表や在庫リストと同じ品番・名称を使うようにすると、現場のスタッフも迷いにくくなります。「注文書では正式名称、店内では略称」という状態は混乱のもとになるので、できるだけ表記を統一しておくとよいでしょう。
明細の合計は、小計(税抜)、消費税額、合計金額(税込)に分けて表示します。複数の税率が混在する場合は、それぞれの税率ごとに税抜金額と税額を分けておくと、インボイス対応後の照合もスムーズです。
併せて、支払条件(たとえば「月末締め翌月末払い」など)や支払方法(銀行振込、口座振替など)を書いておくと、資金繰りの管理もしやすくなります。納期や納品場所、分納の可否、梱包やラベルの指定など、特記事項があれば備考欄にまとめて記載しましょう。特に、冷凍・冷蔵品や精密機器など、扱いに注意が必要な商品を発注する際には、注意事項を一緒に書き添えておくと、トラブル防止に役立ちます。
「誰に・自社は誰か・何を・いくらで・いつまでに」をまずは押さえておけば、最低限の注文書として機能する、というイメージで考えてみてください。

一般的なBtoB取引では、書類の流れは次のようになります。
この中で、注文書は「見積内容を正式に発注するとき」に発行される書類です。見積書の内容に同意したという意思表示の意味も持っています。「見積書をもらったら、内容を確認して、問題なければ注文書で返す」という流れをひとつの基本パターンとして押さえておくと分かりやすいでしょう。
小規模な取引や、日常的に少額の仕入れをしている相手だと、つい発注書を省略してしまいがちです。たとえば、毎週同じ野菜を仕入れている八百屋さんに対して、その日の朝に電話で数量だけ伝える、といったケースです。
こうした取引まですべて書面にする必要はありませんが、次のような場面では、できるだけ注文書を残しておくと安心です。
店舗が増えていくほど、「あのときどういう条件で発注したのか」を遡って確認する場面も増えます。そのときに、担当者の記憶ではなく、きちんとした書類で振り返れるかどうかが、トラブル発生時の大きな分かれ目になります。
たとえば、開業時にまとめて発注した厨房機器について、数年後に故障や入れ替えが発生した際、「最初はどのメーカーの何を、いくらで入れていたか」を確認できるかどうかは、その後の判断に大きく影響します。「どこからが注文書必須か」というラインを、会社として決めておくのもおすすめです。
ポイントは、「すべてを形式的にする必要はないが、“ここだけは書面で”というラインを決めて運用する」ことです。

注文書や発注書は、帳簿書類の一種として、原則7年間の保存が求められます。法人の場合は、欠損金の繰越控除に関係する書類など、一部10年間の保存が必要になるものもあります。判断に迷う場合は、7年をひとつの目安として保管しておくと、税務上も安心です。
紙で保管する場合は、年度ごと・取引先ごとにファイリングしておくと、後から探しやすくなります。電子データで保管する場合も、フォルダ名やファイル名に「年度」「取引先」「発注番号」などのルールを決めておくと、検索の手間が大きく変わってきます。
最近は、メールやクラウドサービスを通じて注文書をやり取りするケースが増えています。こうした電子データでの受発注は、電子帳簿保存法上の「電子取引」にあたり、データのまま保存することが求められます。
単に紙に印刷してファイルしておくだけでは要件を満たさない場合もあるため、取引日や金額、取引先名などで検索できるように保存するなど、ルールに沿った運用が必要です。社内だけで判断せず、顧問税理士やシステムベンダーの案内も参考にしながら、自社に合った方法を検討しましょう。電子化のレベルに応じて、「まずはメールのPDFをまとめて保存する」「慣れてきたらクラウドサービスで一元管理する」など段階的に進めていくのも現実的なやり方です。
見積書・注文書・納品書・請求書といった帳票を、すべてクラウド上で作成・保存できるサービスも増えています。こうしたツールを活用すると、同じ取引先や品目の情報を流用できるため、入力の手間やミスを減らすことができます。
さらに、POSレジや在庫管理システムと連携させることで、「売上」「仕入」「在庫」のデータがつながり、発注量の見直しや原価管理にも活かしやすくなります。たとえばCASHIERのようなクラウド型POSレジでは、在庫管理オプションを利用することで、在庫データから必要な発注量を算出し、そのまま管理画面から発注書を作成するといった運用も可能になります。
「現場で数える」「エクセルに打ち込む」「別ファイルで注文書を作る」という分断をなくし、ひとつのシステム上で受発注の流れを完結できると、担当者の負担も大きく軽減されます。結果として、日々の仕入れ確認や請求書チェックにかかる時間も減らせるため、「紙を増やす」のではなく「手間とミスを減らす」方向に発注フローを整えていくことができます。
「保存ルールを決めたうえで、少しずつシステムに寄せていくと運用もラクになる」というイメージです。
注文書は、単なる「発注フォーマット」ではなく、取引の内容を明確にし、将来のトラブルを防ぐための大事なコミュニケーションツールです。発注内容や金額、納期を相手と同じイメージで共有できるようにし、会計・税務上の証拠としても活用できるようにしておくことで、店舗のお金の流れがぐっとクリアになります。また、発注をきちんと書類に残すことで、社内の不正防止や発注状況の見える化にもつながり、経営者や本部が数字に基づいた意思決定を行いやすくなります。
とはいえ、いきなりすべての発注に注文書を付けるのは現実的ではありません。まずは金額の大きな取引や、イレギュラーな条件の発注から、「注文書を必ず残す」範囲を決めていくとよいでしょう。そのうえで、紙やエクセルだけに頼るのではなく、少しずつクラウドツールやPOSレジと連携させていくことで、発注の流れをよりスムーズに整えていけます。
CASHIERのようなクラウド型POSレジに在庫管理オプションを組み合わせれば、日々の売上・在庫データをもとに必要な発注量を把握し、そのまま管理画面から発注書を作成していく、といった使い方も可能です。「紙の注文書を増やす」のではなく、「システムの中に正確な発注の記録を残す」方向に一歩踏み出すことで、現場の負担を増やさずに、ミスとモヤモヤの少ない仕入・発注体制をつくっていけるはずです。